アカハライモリの貯精嚢精子の季節変動

秋山繁治(清心女子高等学校,山口大学・理工・自然共生)・岩尾康宏(山口大学・理工・自然共生)


 アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)の雌は雄から受け取っ
た精包(精子)を貯精嚢内に蓄え,産卵時に未受精卵を総
排出腔内で受精させる。産卵期は4月から7月であり、この時
期に配偶行動が見られる。一方、秋(10月頃)にも配偶行動
がみられ、晩秋からホルモン注射によって雌は受精卵を生む。
これらは,雄から雌への精子の受け渡しが本来の繁殖期以
外にもおこなわれている可能性や,渡された精子が雌の貯
精嚢中でかなり長期間にわたり受精能を保持していることを
示唆している。今回、貯精嚢中の精子数の変動、卵巣及び
精巣組織の季節変化を詳しく調べ,ホルモン注射による産
卵誘導により貯精嚢中の精子の受精能保持期間の確認を
おこなうことで、有尾両生類での体内受精のしくみを詳しく
調べた。 岡山県上斎原村の河川と水田側溝に生息する個
体群を1999年9月から2000年9月まで調査した。卵巣重量
は産卵期の4〜5月に最大となったが、精巣重量は精子形成
中の8〜9月に最大となった。10月頃から輸精管の精子を放
出できる雄個体が見られた。雌の貯精嚢の精子数は繁殖期
後の8月から10月にかけて最も少なくなった。5月に受精卵を
産んだ雌を12月まで雄から隔離して屋外で飼育した場合,新
たに受精卵を産むことはできなかったので,夏期に貯精嚢内
の精子は受精能を失うと考えられる。一方,野外から採集した
雌は冬期にもホルモン注射により受精卵を生むので,雌は秋
の配偶行動で精包を取り込んでいると考えられる。5月に受精
卵を産んだ雌を低温(4℃)で保存すると12月に受精卵を生ん
だので,低温下では精子は7ヶ月以上受精能を保持すると考
えられる。これは秋に受け取った精子が春まで受精能を保持
できることを示している.一方,4月でも貯精嚢に精子が見られ
ない雌を確認したので,より確実な受精のために春に新たに
受け取った精子が使われるものと考えられる。