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生命科学分野への進学を考える

「進路を考えるときの気持ち」について

↑最も多いのは「自分がどうなってしまうのか不安になる」で、女子では約半分をしめており、男子を上回っている。

世界の大学の物理学科における女性の割合

女性は本当に理系に弱いのか

女性は、一般的に理系に弱いと考えていいのだろうか。能力の特性については「女は言語能力に優れており、男子は視覚・空間認識・数学的能力に優れている」といわれるが本当だろうか。例えば、「男性は数学的能力に優れている」という根拠に、「数学が得意なものを集めたら男の子が多かった」とか「男の子の方が数理的推理テストで高得点であった」など、それを立証する研究が多い。しかしながら、それが生物的背景に基づくとかどうか検証するのは難しい。それは性役割を強化している社会的な影響も考えられるからである。数学的能力の形成には、外部環境が影響する可能性は高い例えば、高校で進路を考えるときに「女なのに理系なの」と言われるように、無意識的に女性には「理系にいかないように」という抑圧がかかっている場合が多い。日本では、女性が物理分野に進学することに、周囲はどのように反応するだろうか。能力の形成に、社会がどのような性役割を期待するかが影響していると考えられる。

日本の大学の各分野での女性の割合

↑理系学部では女性が極端に少ない。日本では4年制大学の学生の男女比はほぼ3対2だが、理学部に限れば4対1、工学部にいたっては9対1になる。OECD(経済協力開発機構)の学力調査によれば、中高生の理科の成績に男女差はないにもかかわらず、理系を選択する女子がこれほど少ないのは、あまりにも極端である。

日本の4年制大学(国公私立)の女性の割合

↑学部生に比べて、教員ではより少ない。逆に言えば、教授、助教授、講師、助手へと下の地位に行くほど女性の割合が多い。さらに、短大より4年制大学で少なく、私立より国立で少ない。つまり、研究条件のよい地位に女性は有意に少ない。このように性格や能力についての性差についてみていくと、今まで当然と考えていたことにも、今日問題とされている社会的なジェンダーによる差別が深く組み込まれていることが理解できる。ジェンダーによる差別の問題は自覚的に修正しないと解決しない。

「男は仕事、女は家庭という考え方」について

男女の性格の特徴を考える

従来考えられてきた男女の性格の特徴に、

  1. 男の積極的攻撃性と女の消極的防御性
  2. 男の自立性・支配性と女の依存性・融合的同調性
  3. 男の現状打破性と女の現状維持性

などがあげられている。このような見方がステレオタイプ化されて、男であれば「男らしさ」、女であれば「女らしさ」として社会的に期待されてきた。しかしながら、現在ではその考え方が男女差別につながっていると考えられている。単なる性別による「区別」であり、不当ではないという意見もあるかもしれないが、男らしさに振り分けられた「積極性がある」「決断力がある」「さばさばしている」などがリーダー的資質なのに対して、女らしさに振り分けられた「消極的である」「よく気がつく」「優しい」は補助的な立場の人に求められる資質であることを考えると偶然ではないことが理解できる。

女性の年齢別労働力率の比較

↑日本の女性の労働力率は、結婚、出産、育児の時期に低下し、M字型となる。スウェーデンやアメリカは台形で、その時期にも労働力が低下することはない。労働力率に就業希望者を足した潜在的労働力でみると、M字型になっていない。日本以上に少子化が進んでいる韓国もM字型になっている。
注)労働力率:15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合

岡山県の大学等進学率の年次変化

↑高校の卒業生の大学等への進学率は増加の傾向が続き、女子は男子より高く推移している。男女共に、個性と能力を発揮して、社会のあらゆる分野に貢献するには、生涯にわたって多様な学習機会が確保されなければならない。

医学部の男女の比率の年次変化

↑上は岡山大学医学部のデータであるが、川崎医科大学では、2005年度入学生の37.1%を女性が占めている。

大学の初年度納入金

↑入学した年に納める金額は、私立大学では文系より理系のほうが高額になる。国立大学は法人化によって、授業料が標準額(2005年度は53万5800円)の範囲内で自由化された。

出典
  • DATA1/リクルート・キャリアガイダンス:全国高等学校PTA連合会「高校生と保護者の進路に関する意識調査」(2003)
  • DATA2/パリティ16、56(2001)、科学72、4(2002):Science 263 1468(1994)
  • DATA3/科学72、4:(2002):Science 291、817(2001)
  • DATA4/理系白書P146(2003):2001年学校基本調査
  • DATA5/2000年男女共同参画社会に関する県民意識調査(岡山県在住の20歳以上男女2000年対象)
  • DATA6/日本以外は総務省「世界の統計2004」、日本は内閣府「男女共同参画白書(平成15年度版)」
  • DATA7/岡山県男女共同参画白書P78(2002)、統計管理課:平成13年学校基本調査
  • DATA8/岡山大学医歯薬学総合研究科等学務課提供資料より作成
  • DATA9/リクルート・キャリアガイダンス・プラス:文部科学省調べ国立大学は2004年度、私立大学は2003年度の計数。

スペシャリストからのメッセージ

スペシャリストからのメッセージ、イメージ清心女子高で「プラナリアの再生」の講義をさせてもらいました。女子高での初めての講義だったので少し戸惑いましたが、生徒の講義に対する喰らいつきは良く、手応えを感じた講義でした。われわれの生物学の分野では、女子の大学生や大学院生・ポスドク(博士の学位をもつ有給の研究者)の比率はかなり高いものとなっています。例えば、分子生物学会のポスター発表会場などでは、1列の半分以上が女性の発表ということもよくあります。しかし、研究者として独立している(自分で研究費を化成で研究室を切り盛りしている)女性の数となると激減します。大学に行くとわかりますが、教授や助教授の女性の数となると、大学院生・ポスドクの女性の数と比べると驚くほど少ないのが現状です。世界的にも、先進諸国といえども、フランスを除きとても半々という数には達していません。理系を目指す女子高生が増えるためには、学問への興味の刺激だけではなく、そのあたりの現状の打破も大きな課題となります。独立した地位が与えられる(自分の好きなことをして生活できる)チャンスが得られるなら、研究者を目指す女性が増えても何ら不思議ではないと思います。そのような状況へと移行するためには、男性の側の意識改革が必要とともに、過渡期において優秀かつ逞しい女性の登場が不可欠となります。諸君らが過渡期を構成する世代になってほしいと思っています。

阿形清和 【京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 教授】

プロフィール*1983年京都大学大学院理学研究科生物物理学専攻博士課程中退、理学博士。基礎生物学研究所・形態形成部門助手、姫路工業大学理学部・助教授、岡山大学理学部・教授、発生・再生科学総合研究センター・グループディレクターを経て、現在、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・教授。

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