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学校設定科目:授業「生命科学課題研究(生物学)」

担当者:秋山繁治・田中福人

目標

2006年から取り組んでいる文科省SSHの研究課題は「“生命科学コース”の導入から出発する女性の科学技術分野での活躍を支援できる女子校での教育モデルの構築」である。120年以上の歴史があり、旧来の女子教育の呪縛から逃れにくい学校が積極的に女子の理系への進学を支援することは、社会の意識を変えるきっかけとして重要であると考えている。女子校の構成者は女子だけなので、必然的に部活動や実験・実習などすべての活動で女子がリーダーとならざるを得ない状況にある。そのことは逆に言えば、リーダーシップを養成し、積極性を身につけるのに適した環境であるともいえる。
本講座の目標は、生物学分野(生物工学・時間生物学・菌類キノコ学・発生生物学)の課題研究に取り組むことを通して、科学的な思考ができる自立した女性を育てることである。

課題研究テーマ

(1)生物工学グループ

高校では,酵母は出芽という無性生殖を行う生物の例として取りあげられているが、「酵母はすべて無性的に増殖するものなのか」、また、「自然界には多くの酵母が存在しますが,なかには有性生殖を行うものもいるのか」、「出芽ではなく分裂によって増殖する酵母はいないのか」、「酵母はアルコール発酵をおこなう例として扱われているが,野生の酵母はすべてアルコール発酵をおこなうのか」、「アルコール以外に,私たちの生活に有用な物質を作り出す酵母はいないのか」など、酵母についての疑問点を解決すべく、研究している。
現在、花や果実に比較的多く生息しているといわれる“花酵母”(野生の酵母)の取得に取り組んでいる。花をつける植物は蜜を求めにやってくる昆虫によってその繁殖が助けられているが、花の蜜は酵母の増殖にも役立っている。蜜の近くで生息している酵母は,花粉と同じように昆虫に付着して別の花へと運ばれ,そこで新たに増殖するから、同じ酵母がいろいろな花に分布していることが予測される。花の種類と分布する酵母の種類の相関を分析することによって、生態系の理解が深まると考えている。
日常的には学校内(それ以外に、鳥取大学蒜山演習林の野外実習や西表島の研修のとき)で開花している花の蜜に近い部分から酵母を採取し、純粋分離し、[1]光学顕微鏡観察による形態的な分類、[2]リボソームRNAをコードするDNAの塩基配列や電気泳動核型をもとにした分類,[3]発酵能力の確認などをして、[4]酵母の種類を特定する作業を行っている。将来は、[5]花の種と酵母の種との相関の解析,[6]酵母の胞子形成能の確認,[7]性を持つ酵母菌株の検索,[8]人間生活に有用な菌株の発見、などの研究を進めていくことを目指している。

(2)時間生物学グループ

動物、植物、菌類、藻類など、ほとんどの生物は昼夜のサイクルに合わせて時を刻んでいる。人間が朝起き、昼間働いて、夜は眠るという生活リズムを持つのはそのためである。時間と植物の生理的な現象の関係についての研究で有名なものに250年以上前にカール・フォン・リンネが作った“花時計”がある。しかしながら、現在でも開花時刻を正確にまとめてつくられた花時計は少ないので、周辺に多様な野草が生息しているという自然豊かな本校の環境を生かして、身近な植物を扱ったオリジナルな花時計をつくろうということで研究を始めた。
開花時刻の調査から始まった研究は、毎年、研究テーマを継承していき、現在はデンジソウを用いて、葉の就眠運動のリズムの解析を行っている。研究用の記録装置を自作したり、葉の開閉運動にどのような生理現象が関与しているか、また、そこに関わる遺伝子の存在の究明など、就眠運動を様々な科学的アプローチにより紐解こうとしている。生物リズムを調べることで、一つの生命現象の、外部環境及び体内環境による変化、他の生命現象との関連が考察できる。本研究グループでは、生物リズムの研究をきっかけとし、一個体内における生命現象の包括的な理解を目指していきたい。

(3)菌類・キノコ学グループ

本校が位置する才公山は、様々な生物種が生息する里山である。里山の有効利用については、環境教育を中心に様々な取り組みが行われているが、生徒の身の周りの環境を活かしたESDの観点から、里山資源を利用したキノコ栽培に注目した。才公山の優占種は主に竹であり、他の生物種の生態系を守るために、定期的な伐採並びに根茎の除去を行っている。この伐採後の竹は有効利用したいという思いから、現在、キノコ菌床栽培における廃竹の有用性について研究している。竹粉には乳酸菌が多く含まれ、土壌改良材としての利用が期待されているが、キノコ栽培で用いる菌床に混ぜることで、菌糸の成長が促され、収量ならびに収穫効率が上昇するのではないかと仮説を立て、研究を進めている。
また、岡山県は桃の生産が盛んであり、収穫期にはスーパーや生産直売所などに多量の桃が並ぶ。桃は、多くの家庭では、皮や種を除いて食べる習慣があり、除かれた皮や種は、家庭廃棄物として生ゴミとなる。このような家庭廃棄物のキノコ栽培における利用についても検討し、生徒の環境保全意識を高め、持続可能な開発に向けての意識を高めたいと考えている。

(4)発生生物学グループ

両生類は,近年その数を激減させている。その原因は,大規模な土地開発による生息地の消失,それにともなう汚水の流入などの環境悪化,水田の乾燥化,ペットとしての捕獲,外来生物の影響などがある。本校では,1989年から岡山市内のカスミサンショウウオの生息地で,個体数が激減している地域の卵嚢を持ち帰り,卵から幼生上陸直前まで飼育し,放流する活動を行うとともに,飼育下での繁殖にも取り組んできた歴史がある。今までにカスミサンショウウオ・オオイタサンショウウオ・イボイモリで飼育下の繁殖に成功している。
現在、オオイタサンショウウオとカスミサンショウウオを用いて,人工受精の方法の確立と孵化後の幼生の良好な飼育条件を見つけることを目指して、研究している。人工受精については、受精後の正常発生率を上げることや、卵や精子の受精能力の保持期間を延ばすことを目指している。そして、幼生の飼育については、飼育密度、餌、共食いの影響などを調べて好ましい条件を見つけることを目指している。

助言及び指導

各研究グループは、福山大学生物工学部、岡山県立大学保健福祉学部、岡山大学理学部、山口大学理学部、川崎医科大学医学部、広島大学両棲類研究施設、奈良女子大学理学部など、それぞれ専門の先生方に助言や実験の指導をしていただいて進めている。各分野の専門家と相談しながら研究を進めていけるような大学の雰囲気を持ち込むことを目指している。

これまでの歴史

1984年に生物同好会(1997年に部に昇格)として始まった。最初は、理科の授業で使うレベルの設備を使って、生徒各々が自分で見つけたテーマを研究して行く形に留まっており、部の特徴となる継続した取り組みがないという悩みがあったが、1989年に体育の教師が偶然持ち込んだカスミサンショウウオの卵を産卵するまで飼育した成果が地元の新聞に掲載されたことがきっかけになり、有尾類の飼育と繁殖が中心テーマになった。さらに、2006年に文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、クリーンベンチやオートクレーブなどの実験機材を整備できたのをきっかけに、SSHの生物分野の研究を中心的に進める部として再出発した。2007年度から3つのグループに分かれて研究に取り組んでいる。

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