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第32回日本産婦人科医会 性教育セミナー全国大会集録

2009年11月10日

論文題目:高校での性教育の実践とその課題
~総合的な学習で「性教育」を中心にすえた授業「生命」を実践して~

■はじめに
 私が性教育に関わるようになったのは全くの偶然で、着任した年に若いからというだけの理由で性教育の係になったのが出発点である。当時の私は性教育についてあまりにも知識が少なく、取り組むことに抵抗があった。一生懸命考えた方法は、教科の授業のように知識を持っている者が持っていない者に教えるという図式ではなく、性に関わる新聞記事を使っての話し合いや、毎日配布する学級通信(多い時は年間200号)に性に関する内容を記事として掲載して伝えていく過程で、自分自身も少しずつ学ぶというものだった。当初はあくまで「性」に直接関係した内容を教えることが性教育だと考えていた。
 20余年が経過する中で、性教育についての考え方も変わった。「性」は、生物的性(セックス)だけでなく、社会的要因によって作り上げられる性(ジェンダー)、生物的社会的側面を包括した個人の全人格の“生き方”に関わる性(セクシュアリティ)というとらえ方がある。現代の性教育は、いろいろなとらえかたの「性」とともに、どのように生きるかを、生徒自らが考え行動するよう導かなくてはならないと考えるようになった。
 この考えの下、エイズ予防啓発外書の分担翻訳作業、海外研修でのエイズ資料の収集、野外彫刻調査、学校飼育動物調査、カメ捕獲調査などを行い、いろいろな視点から、学校において「性」を学んでいけるよう教材を考え、私なりに性教育に取り組んできた。

■学校でどんな性教育ができるか
≪生物の教師としての役割≫
 生物担当の教師として、性教育をすすめていくのにどの部分で貢献できるだろうか。まずは、科学的な基礎知識をちゃんと教えることが基本だと考えている。例えば小学校の実践で「一つの選ばれた精子が卵子(生物学では卵)と受精できる」という擬人的な捉え方で、生命の尊厳を教える指導がよくされているが、きちんと実際の生物現象を観察させることを大切にしてもらいたいと考えている。受精とは、ヒトやカエルでは確かに一つの精子が卵に入ることによって、細胞内の電位変化が起こるとともに、細胞外では受精膜が立ち上がり他の精子の侵入を阻害(多精拒否)する。しかしながら、イモリでは一つの精子が卵に侵入しても他の精子の侵入を阻止することなく、卵は複数の精子と受精(多精受精)する。受精スタイルは種によって異なるのである。
 私は、受精スタイルよりも受精後の発生過程を重視した指導が好ましいと考えている。受精卵という一つの細胞が分裂を繰り返して、手や足など次々に生物のからだが作っていく過程を観察することで、「人間を含めて、どんな生物もこのような発生過程を経て生命が誕生するのだ」という基本的な知識を視覚的に理解できる点が重要だと考えている。受精後の発生課程を理解することで、サリドマイドの薬害や妊娠初期の投薬に関する注意などについても科学的に理解できると思う。

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≪総合的な学習の時間の利用≫
高校では2003年度から学年進行で、「総合的な学習の時間」が実施されている。生徒が自ら学び自ら考える力や学び方やものの考え方などを身に付けさせ、問題解決する資質や能力を育むことを目的に設定されている。私は、まさしく“生き方”を考え、身につける上で大切な「性」を扱うには好都合な枠であると考え、「性」をテーマにした授業「生命」(高2対象2単位)を開講することにした。
 この授業は、人には多様な考え方があるということの確認から出発して、医学や生物の科学的知識を学び、調査やレポート作成をし、「どのように生きるか」を生徒自身に再考させることを最終目的にしている。従来の知識を与え、「考え方」を一定の方向に導くという指導では、「どのように生きるか」を再考させることはできないと考えている。

≪身近な「学校や街角のポスター」も教材に≫
 日常的に接しているポスターを教材として使うことは有効である。ポスターはもともと相手に対して何らかのメッセージを伝えるためにつくられたものである。直接的なメッセージだけでなく、今の社会を反映したメッセージととらえることによって、社会のあり方を考える材料にすることができる。
 1991年度世界エイズデーのためにエイズ予防財団がつくった二枚のポスター『いってらっしゃい。エイズに気をつけて』、『薄くても、エイズにとってはじゅうぶん厚い』を教材として扱ったことがある。一枚はパスポートを持った男性が、海外での買春に出かけることを認容した印象をあたえるものであるという点が、もう一枚はコンドームの中に裸の女性という構図が女性を侮辱しているという点が問題になった。背景に、エイズが世界的な社会問題となり、緊急に注意を喚起する状況にあったので、今までにない思い切った直接的なメッセージを持たせた構図をとったのだと考えられる。私は、このようなポスターを教材にするとき、すぐに問題点を指摘するのではなく、何が問題になったのかを推測させる過程を大切にしたい。このように導入することで、今の生徒たちの考え方に触れる機会を得ることにもなる。
 また、1993年3月5日発行の学校保健ニュース(日本写真新聞社)掲載の『エイズは確実に死ぬ病気“純潔”こそがエイズを防ぐ唯一の手段』も教材として利用した。本文に「年頃の異性と二人きりで喫茶店に出入りしたり、部屋や車内で二人きりになることから、不純異性交遊は始まっています。やさしい誘いも、断固としてことわる勇気をもちましょう」、「純潔とは心もからだもけがれなく非行をしないことです」という表現がある。性行動を「不純異性交遊」ととらえているもので、このような教材を提示するとき、教師自らがどの視点に立っているのかを確認し、また、生徒が性行動をどのように考えるかを点検すべきだと考える。どのような性行動を選ぶかは、“生き方”の問題であるという視点を忘れてはならない。
 ポスターの他にパンフレットも教材として利用できる。ハワイへの海外研修の際に、マウイ・エイズ基金の事務所で、エイズ・STD等についてのパンフレット37種類を入手できた。教育に使うと言えば無償で提供してもらえる。英語はもちろん日本語など多国語のものを提供しており、年代別につくられたもの、同性愛者を対象としたもの、女性のためのものなど、いろいろなものがあった。国際的な視野で性を考えさせる教材として有効であると考えられる。

■現代の性教育を考える
 性行動の現状は、「初交年齢が早まっている」「性的パートナーの数が増えている」「性関係に至るまでの期間が短くなっている」「売買春にかかわる人の割合が若い人ほど高い」「性体験率に都会と地方と差がない」「女子生徒の方が性体験率が高い」となっている。高校3年生で30%以上が性体験があることに対して、生活指導や性感染症予防の見地からの教育の必要性が叫ばれている。しかしながら、多くの生徒が性行動に走っていると考えてすべての対応を考えているように感じられるが、逆に言えば約70%の性体験のない生徒も存在するのである。公衆衛生的な医師の立場では、現状を反映したカンフル剤的な教育が早急に必要だと考えられるのかもしれないが、学校での教育には、現代社会の要求に対応した形で生徒に“生き方”を考えさせるようなワクチン的な教育も模索しなければならないと考えている。
 性教育についての生徒へのアンケートに「危ないことは危ないと教えてほしい」、「堂々と教えてほしい」、「ふざけ半分の言い方はよくない」、「心配な時の具体的な相談先を教えてほしい」、「身近な話を聞きたい」などのメモがあった。教師はこれらに対して、どのような教育を展開していくべきなのだろうか。医師の中には、直接「性」に関連した出前講座(医師が学校に出向いて行う講義)をやれば、教師の性教育は必要ないという人もいる。しかし、私は、学校教育での性教育は、医師とは違った立場で、生徒たちに“自分らしく生きる”ということを考える機会=「教育の場」を提供しなければならないと考えている。

【参考文献】
1)  秋山繁治:SAFER SEXの翻訳によるエイズ学習.月刊高校生3月号.pp38-45.高校出版.1994
2)  秋山繁治:性教育の日常的実践と今後の課題.紀要.No.12.p1-31.清心中学校清心女子高等学校.1996
3)  秋山繁治:総合的な学習の授業「生命」で生き方教育・「大切なもの」をどのように伝えるか.現代性教育研究月報Vol.23.No.8.p1-5. 日本性教育協会.2005
4) 秋山繁治:エイズを学ぶ研修旅行.月刊高校生6月号.pp62-69.高校出版.1995

  • 投稿者 akiyama : 14:58

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