若い頃の教育者は、①制度を良くしようとする、②成果を出そうとする、③組織の中で影響力を持とうとするという方向に引き寄せられます。
しかし、晩年の教育者は、制度を回す人ではなく、制度の限界を知っている人の立場になります。
①制度は万能ではない、②正しさは人を救うとは限らない、③成果は意味を保証しないということを体験として知っています。
有尾類――イモリやサンショウウオの研究は、決して効率のよい研究ではありません。成長は遅く、繁殖は不確実で、結果が出るまでに長い時間がかかります。それでも私は、晩年の教育者として、生徒の科学研究の場として有尾類研究所を立ち上げて、今も生徒と一緒に研究を続けています。
① SSHは、成果を可視化し、生徒の可能性を広げてきた制度です。一方で、研究が「短期間で結果を出す競争」になりやすい側面もあります。有尾類研究は、その流れに逆らい、「急がない探究」の価値を静かに問い返します。
② オープンラボは、成果や評価を最優先しない学びの場です。途中でつまずいてもよく、迷いながら研究してもよい。生徒が「研究が好きかどうか」を考える時間そのものを大切にしています。
③ 有尾類は、人間の都合で生きていません。こちらが急いでも、相手は応じてくれない。生きものの時間に合わせることで、研究とは何か、学ぶとは何かを、体験として学びます。
④ 晩年の教育者にできるのは、答えを与えることではなく、問いの前に立ち続ける姿を示すことだと考えています。
私が残したいのは、完成された制度や派手な成果ではありません。生きものと静かに向き合った記憶、急がずに待ってもらえた時間、研究が競争ではなかったという体験です。それらが、生徒一人ひとりの中に沈殿し、いつか自分の問いを立てる力になれば、それでよいと思っています。














