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「科学課題研究」を中心にした教育プログラムで、生徒の好奇心を育成

2020年11月21日

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はじめに
私が高校教員として,生徒の科学課題研究の指導に取り組んだのは,勤務校がSSHに指定された2006年から2016年までの約10年間です。課題は,「生命科学コースの導入から出発する女性の科学技術分野での活躍を支援できる女子校での教育モデルの構築」であり,科学課題研究を柱としました。

科学課題研究を教育プログラムの柱に設定
SSH教育プログラムにおいて,「体験」では,森林実習(4泊5日)や沖縄の離島での環境学習(4泊5日),マレーシアの高校生大学生との国際交流・環境学習(9泊10日)をおこないました。森林実習は森林調査が目的ですが,メンバーが仲間として協力し合わないと調査に支障がでて,なかなか山から下りられない場面を作るという目的もありました。実際,これらの体験を通して,課題に取り組む仲間としての意識が生まれた雰囲気が伝わってきました。「体験」を土台に「知識」として,英語の運用力(ディベートなどを通じて),実験機器を的確に使う力,データの収集や処理をおこなう力,生命倫理・研究者倫理について考える力を養成しました。そして,その「体験」と「知識」を「研究(科学課題研究)」に集約することによって,学びへの意欲が高められ,生徒たちの好奇心が覚醒されていきました。

オオイタサンショウウオの人工繁殖からのスタート
生物部で1989年から各種の有尾類を継続飼育してきた歴史があったので,SSHの最初の5年間は,オオイタサンショウウオの幼生から成体になるまでの飼育,飼育下での繁殖実験に取り組んだ研究「サンショウウオの人工繁殖」から始め,全国レベルの科学研究発表会に出場して高い評価を得るという目標を設定しました。生命科学コース(兼SSHクラス)最初の入学生は,ちょうど3年目に研究成果をSSH生徒発表会(全国大会)で口頭発表するチャンスがあり,結果は,"科学技術振興機構理事長賞"の受賞でした。生徒のやり遂げたという満足した笑顔は今でも忘れられません。地方の女子校でも,コツコツと誠実に努力すれば全国レベルの発表会に通用したことが,生徒の科学研究へ取り組む意欲をさらに高めるいい流れを作りました。

四つの研究グループのさらなる発展の中で,目を輝かせる生徒
次の段階では,生徒の興味・関心に応じて選択しやすいように,生命科学課題研究に四つのグループ(発生生物学グループ,生物工学グループ,時間生物学グループ,環境化学グループ)を設定しました。
〈有尾類の繁殖と発生;発生生物学グループ〉セトウチサンショウウオの卵嚢が生物教室に持ち込まれてから始まった研究です。サンショウウオHynobius 属の飼育下での繁殖方法の確立を目指して,幼生を安全に飼育する方法を検討したり,受精させる方法として飼育下の繁殖行動誘発や人工授精を試みて,受精卵を得ることに成功しました。アカハライモリではクローン作製(胞胚の核を未受精卵に移植する方法)にも挑戦しました。
ほかに,学校周辺の水田地域でのカメを対象にしたラジオテレメトリーによる行動調査,アカハライモリを対象にしたマイクロチップを用いた標識再補法による調査,小学校の飼育動物のアンケート調査などもおこないました。
〈化学物質の生物への影響;環境化学グループ〉化学物質の生物への影響をテーマに,最初は植物で,発芽や発根に無機物質がどのように影響するのかを考え,ブロッコリースプラウトを無機物質の種類や濃度を変えた水溶液で育てる実験をしましたが,影響の差異は認められませんでした。次に動物で,サカマキガイへの銅の影響を調べたところ,生死に大きな影響を与えることを発見しました。同じくスクミリンゴガイでも同様の事象を確認しました。スクミリンゴガイはジャンボタニシともいわれ,水田での食害が問題になっているので,その駆除に役立つかもしれません。
〈植物が持つ体内時計;時間生物学グループ〉生物リズムの測定をテーマに,1日の中での開花時間をまとめた花時計の作製,セイヨウタンポポの開花リズム,カタバミやデンジソウの葉の就眠運動リズムの調査をおこないました。就眠運動リズムの測定では,赤外線を用いた自動測定機器を自作して解析を進め,就眠運動の日周変動について詳細に調査しました。また,デンジソウは絶滅危惧種であるため,就眠運動リズムに限らず保護のための繁殖研究や組織培養もおこないました。ほかにも,放棄竹林問題の解決に向けて,竹粉の有効活用に着目し,竹粉を用いたヒラタケやエリンギの菌床栽培にも挑戦しています。
〈野生酵母の分類と同定;生物工学グループ〉花酵母を題材に,自然界における生物相互の関係と機能を理解することを目指して始めた研究でしたが,研究過程でエタノール発酵能とセルロース分解能を同時に持つ菌株を見つけたことで,バイオエタノールが生成できる酵母菌の研究に大きく舵を切ることになりました。バイオエタノールの生産は,これまで多く用いられてきた原料がサトウキビやトウモロコシという食糧であるため,廃材等の木質バイオマスを原料にした生産方法の開発が期待されます。
それ以後,学会のポスター発表や高校生の科学発表会で高い評価を得るようになりました。なお,対外的成果の一部は文献の後に列挙しています。

科学課題研究を「生徒に取り組ませる」から「生徒が取り組む」研究へ
末期がん患者のターミナルケアに携わった看護師が,死を前にした後悔の言葉を『死ぬ瞬間の5つの後悔The Top Five Regrets of The Dying』にまとめています。①期待に応えるよりも,"自分らしく" 生きればよかった,②あんなにがむしゃらに働かなくてもよかった,③いいたいことを我慢せずはっきりと口に出せばよかった,④もっと友達と連絡をとればよかった,⑤もっと自分の幸せを追求すればよかった,があげられています。
これらの言葉には,生きる上での大切なヒントが隠されているように思います。人として大切にしなければならないことは,自分らしく生き,そして人間関係を大切にすることなのではないでしょうか。科学課題研究は,他律的にやっても労多くして功(生徒の探究力の熟成)少なし。生徒が持つ好奇心を大切にすることが重要であることを大前提とし,「誠実であること」,「気持ちを共有できる仲間がいること」,「社会に貢献する意識を持つこと」を大切にしながら,生徒とともに取り組みました。
とはいえ,気持ちや精神論だけではどうにもなりません。まずは,生徒たちが「これから取り込もう」と自覚するような環境を作りました。特に,生物教室を発生生物学,生物工学,時間生物学などの研究に対応できる科学課題研究の利用に特化した環境に整備しました(図4)。そうすることで,日常的かつ自主的に生徒の活動する姿が見られるようになりました。
研究の完成度を上げることを誠実に求める気持ちで研究に取り組めば,日々の努力に付随し真の意味で理系に進む際に必要とされる学力が身につくはずです。そして,実験後のデータをまとめた後に,結果を生徒と議論しながらサポートすることが大切で,それが次の実験を進める方向を決める重要なポイントになります。
また,具体的に研究を発表する場を決めておくことも生徒のやる気を喚起します。具体的な目標を持つことで,期日までにできるだけいいものにしようという気持ちで,集中力が増して,研究の完成度が急激に上がります。

おわりに
一生涯「戦争絶滅」を訴え続けたジャーナリスト,むのたけじの著書『99歳一日一言』に,「忠告されたがらない人が多い。忠告したがる人が多い。お節介の九割は裏目に出る。」とあります。学校は,生徒に学校教育を通して"忠告"ばかりしてきたのかもしれません。SSHでの取り組みでも,「女子生徒を理系進学支援」を旗印に掲げて,生徒に対して,「課題研究では,"高校生らしい"ではなく,"本格的"な研究を目指しなさい」と,「研修旅行では"一生の記憶に残るような直接的な自然"を体験しなさい」と,いつも"忠告"を与え続けてきました。結果として,生命科学コースに入学しなかったら,科学研究への道を歩まなかっただろうなと考える生徒にとっては,生き方を変えたかもしれません。また,逆に高校生という早い段階で本格的に科学研究を体験して,自分には向いていないと結論したり,限界を感じて進路を変えた生徒がいたかもしれません。今回の教育プログラムの評価はなかなか定まらないかもしれませんが,一部でも生徒の将来の進路に影響するようなことを起こしたのは事実です。成功だったかどうかは,どんな企画をたてたかとか,どれだけ多くの人を集めたかとか,難関大学に多くの合格者をだしたかとか,科学研究発表会で多くの賞を受賞したかではかるものではなく,この課題研究を中心に据えた教育プログラムで直接的および間接的にどれだけ多くの人の幸福に貢献したかではかるものだと考えています。
2019年公示の高等学校学習指導要領では,科学課題研究に扱う科目として「理数探究基礎」と「理数探究」が誕生し,2020年から年次移行します。これまで,生徒の科学研究は,多くの学校で放課後の部活動としておこなわれてきましたが,これからはカリキュラムに組み込まれた授業で扱われることが多くなると思います。科学課題研究が全国の学校で,生徒に魅力的なものになるかどうかが,教育改革の新時代を切り開く重要な鍵になると思います。

[文献]
1) 今井桂子, 佐々木政子, 秋山繁治, 平田京子. 座談会 「理系女子はなぜ少ないか」. 大学時報 (日本私立大学連盟) 310,14-25 (2006).
2) 秋山繁治. SSH指定から七年, その成果と課題. 大学時報( 日本私立大学連盟) 352, 44-51( 2013).
3) 秋山繁治. 平成23年度指定SSH研究開発実施報告書第5年次 (2016).
4) 秋山繁治. 総合的な学習の授業「生命」での生き方教育. 現代性教育研究月報( 日本性教育協会) 23(8) (2005).
5) Bronni Ware. The Top Five Regrets of the Dying: A Life Transformed by the Dearly Departing( Hay House Inc. California, 2012).
6) むのたけじ. 99歳一日一言( 岩波新書, 2013)

[生徒研究発表の主な受賞]
〔2017年度〕

•平成29年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会 審査委員長賞
•第7回高校生バイオサミット 文部科学大臣賞
•第61回日本学生科学賞岡山県審査 県知事賞
•第15回高校生科学技術チャレンジ( JSEC2017) JFEスチール賞
•第61回日本学生科学賞中央審査 入選2等
〔2018年度〕
•インテル国際学生科学技術フェア (I SEF2018) グランドアワード4等
•第8回高校生バイオサミット 農林水産大臣賞 環境大臣賞
•第16回高校生科学技術チャレンジ( JSEC2018)花王特別奨励賞

※ぼうぼうどりの生物教室〈 http://www.shigeharuakiyama.com/〉
2006年度から2015年度のSSH研究開発実施報告書, SSHガイドブック, 女子生徒による科学研究発表交流会冊子はHPからダウンロードできます。

  • 投稿者 akiyama : 10:13

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