SSH指定を受け、生命科学コースの教育課程が動き始めると、清心女子高等学校には、課題研究、科学英語、中高連携、高大連携、海外研修などを視察するため、全国の高等学校や教育関係機関から教員が訪れるようになった。JSTアンケート調査に記録された視察者の感想からは、生命科学コースで行われていた授業、課題研究、実践英語、発表会が、学校外の教員の目にどのように映っていたのかを読み取ることができる。
二〇〇八年度のJSTアンケートには、日常の授業で、教科書から一歩踏み込んだ実験教材を独自に開発し、それを事前学習や事後学習と系統づけて進めていること、生徒が主体的に取り組めるよう実験方法を工夫していることが記されている。さらに、生物部の活動や教員の協力体制にも触れ、教員自身が楽しんで生き生きと取り組むことが、生徒の意識を高めているという感想も残されている。ここから見えてくるのは、SSHが、教師が自分の専門に立ち戻り、生徒とともに未知の現象へ向かう時間を、学校の中に生み出していたということである。
二〇一〇年度の記録には、「女性研究者の育成」という研究開発課題に沿って、系統立ったカリキュラム開発が行われ、英語教育や生命科学分野の指導に特色があることが記されている。また、授業「生命」で扱った問題を「実践英語」のディベートへつなぎ、身近な題材を通して生命への問題意識を持たせ、根拠を調べ、論理的に考え、複眼的な見方を育てる指導が行われていたことも記録されている。
課題研究の最終発表会については、代表生徒が原稿を見ることなく、ステージに立って、身振りを交えながら聴衆へ語りかけていた様子が記されている。発表用のシートには図や写真が適切に配置され、予想される質問に答えるための資料も準備されていた。一般生徒からの質問も途切れなかったという。ここには、発表する生徒だけでなく、研究を聞き、疑問を持ち、質問によって発表者へ問い返す生徒も育っていたことが表れている。
科学英語研究会の記録では、清心女子の「実践英語」が、生命科学や生命倫理の問題を他者へ伝えるための言葉として英語を位置づけていた点が注目されている。受精卵を扱った実験、学校飼育動物、臓器提供、出生前診断、代理出産など、授業「生命」で考えてきた問題を題材にし、理科教員と英語科教員が資料を選び、生徒が根拠を集め、立場を組み立て、英語で発表し、質問に応答する授業が行われていた。
二〇一一年度の視察記録には、「実践英語」が一年から三年まで一単位で実施され、コミュニケーション能力、論理的思考力、英語でのプレゼンテーション能力を育てる三年間の一貫したプログラムになっていることが記されている。現代社会でディベートを学び、国語で意見文を書き、情報で資料を集め、英語のライティングで原稿を書き、オーラルコミュニケーションで発表練習をする。科学英語のディベートは、英語科だけの取り組みではなく、複数の科目にまたがる学びの中で組み立てられていた。
二〇一二年度以降の記録にも、実践英語の段階的な指導が残されている。生徒は、年間カリキュラムの中でディベートの基礎を学び、資料を読み、根拠を集め、英語で相手に伝わるように表現する活動へ進んでいった。独自に開発された教材やテキスト、理科教員と英語科教員が協力して資料を精選する体制についても触れられている。ある教員は、「英語力を身につけるのは当たり前で、身につけた英語力で何をするか、どのようにコミュニケーションするかがこれからの課題」という言葉が心に残ったと記している。
これらの記録から見えてくるのは、生命科学コースが、「知識」「体験」「研究」を、授業、課題研究、発表会、実践英語、外部との交流の中で接続しようとしていたことである。視察に訪れた教員は、個々の授業や発表会を見学しただけではなかった。授業「生命」で扱った問題が実践英語のディベートへつながり、課題研究が発表会で問い返され、英語が研究を伝えるための言葉として使われていく流れを見ていた。
生命科学コースで目指した教育は、外部の教員の視察を通して、学校の外にも伝わっていった。他校の教員が授業を見学し、生徒の発表を聞き、研究会で質問し、自校の教育に持ち帰ろうとした。その記録は、清心女子のSSHが、女子生徒の理系進学支援を出発点にしながら、高校の中に研究を置き、英語による発表と応答を含めて科学教育を組み立てる実践として受け止められていたことを示している。














